足の冷たい夜は、優しく温めて

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さて冬。毎年のお決まりの凍える冬。心はともかく、身がひたすら冷える冬。

この冬は、遥か彼方の銀河系からCER-11がやってきたし、いないはずの猫が潜んでいる気がしてならないデザインの足元コタツも導入したし、もちろんエアコンもあるし、これでもかと底冷えする部屋でもそれなりに防寒仕様になってきた。

けれどもね、悲しいかな我が身一つはもとの身なので、春の前座の花粉ショーが始まっている三月ですら、身体のなかに冬が居座っているとしか思えないほど内側から冷たい。

さて、そんな冬でも、そんな冷え性のわたくしでも、夕食を終えた後には食器とお昼に使った弁当箱を洗うという日課は変わらない。

食洗機を置くには狭い台所なので季節に関係なく手洗いだけど、ゴム手袋をはめて湯も惜しみなく使うので辛くはない。

洗い物が片付いたら、電気ケトルで湯を沸かす。

お茶でも飲むの?いいえ、湯たんぽを準備するのですよ。

わたくしの湯たんぽは可愛げがあるとは言い難く、重くてゴツい。お湯もたっぷり3リットルくらい入るので、電気ケトル1回分ではとうてい足りないが、足りない分は蛇口から出てくる湯を入れる。

沸かした湯と蛇口から出てくる湯をブレンドして、ええ湯加減にするのだ。素手で湯たんぽを持ってみて熱すぎるくらいが、ちょうどええ。

湯を入れたら、フタをキュッと閉める。本当にキュッと音がする、ときもある。フタの周りからじわっと滲みでてくる湯を拭き取る。

満タンにしていないのに湯が滲みでてくるのはなぜなのか後で調べようといつも思うのだけど、この森羅万象に対する探究心は、湯と一緒に拭い去られてしまって、湯が滲むメカニズムは未だ判明していない。

お次は、湯たんぽを抱えて布団まで運ぶ。熱いので、服の袖口を引っ張って手を覆ってから抱える。服をとおしてじんわり温かい。

猫を飼ったことがないわたしには、抱えた湯たんぽと猫のどちらが温かいのかわからないが、とりあえず、猫と違って陶器製の湯たんぽは落としたら割れてしまうので、猫なら逃げ出しそうなくらいしっかり抱えて運ぶ。

ネコネコとしつこいが、湯たんぽは猫みたいに柔らかくないし、寝ているあいだに火傷したくもないので、布団に仕込む前に膝掛けに包む。

湯たんぽカバーなるものも売ってはいるが、わたしの湯たんぽは金属やプラスチックのものに比べて大柄で、合うサイズが見つからなかった。

でも膝掛けでまったく不都合がないので、専用カバーのことはもうどうでもいい。

着ぶくれてさらに一回り大きくなった湯たんぽを、足元あたり置き、そっと掛け布団をかける。

そして立ち去る。

湯たんぽの準備なんて、こんなものである。

ところで、湯たんぽの話をするのに食器を洗う話から始めたのには訳があって、洗い物のついでにやれば蛇口から湯が出るまでの待ち時間がないし、電気ケトルに入れた湯もすぐ沸騰するので湯たんぽの準備がスムーズに整うよと言いたかったからである。

湯たんぽっていかにも丁寧な(手間暇かかってめんどくさそうな)感じがするが、この丁寧な暮らしが要求してくる「ちょっとした手間」というのは基本的にめんどくさくてやってられないものだし、そもそも湯たんぽを抱いて寝ようという寒い夜には、なけなしのやる気も凍りついているのである。

だから、洗い物とか必ずやる事の流れに組み込んでしまう。ついでの作業になれば楽になるし、楽になればやる気を引っ張り出す必要はなくなるし、やる気に頼らなければ続く。

逆に、がんばらないとできないことは続かない。

こんなふうに、めんどくさい気持ちやちょっとした手間を上手くごまかす工夫を「コツ」という。

洗い物からの湯たんぽ準備はわたしなりのコツであるが、このコツってやつは微妙かつ繊細なもので、個性やちょっとした環境の違いによって全く役立たなくなるので、これを読んでいるあなたにはあなたなりのコツがあるだろう。

マニュアル化しにくい細々したコツを身につけることで、私たちはそれぞれの生活の匠になっていくのだ思う。

そろそろ金言名句に辟易してくる前に、ベッドに仕込んだ湯たんぽに戻ると、あれから歯磨きやネットサーフィンや気になっていた本を読んでいるうちに1時間ほどが経ち、ベッドで待つ湯たんぽのことなど忘れてしまっていて、布団に入るのが憂鬱になっている。

そう、冬ならではの楽しみがあるのなら、冬ならではの辛みもあるのだ。

我が身も布団も程よく温まって、額と鼻の先にだけひんやりとした空気を感じながらも、ぬくぬくとしているのが冬ならでは楽しみなら、冷たい布団を温めるだけの熱すらない冷え切った身体をいつまでも冷たいままの布団に挟んで震えている夜は辛みの極致である。

特に冷え性のわたしは、後者の、布団の隙間で凍えるばかりで眠れない夜を長年過ごしてきたので、渋々とため息まじりに布団に入る・・・

しっかぁぁああし、なんということでしょう!

ほのかな優しさ、これは温もり・・・満ちている!ふっくらぬくぬく!福々しい!ふぅぁあああああ・・・・!!

一番乗りに潜り込んだ凍える足先を包みこむ柔らかい温もり・・・足の指がジンジンする・・ああ・・・至福!

あぁ湯たんぽを仕込んでおいた1時間前の自分がめっちゃ好き!!

ひとり寝る夜のあくるままで温かい

もちろん、この粋な企みはわたし一人の才覚ではない。わたしなどは冬の夜が辛いのはデフォルトだと諦めて、長年、震えながら恨み節を口ずさむばかりの課題解決能力に乏しい人間である。

だからいっそう、寒い夜は布団を温めといたらええよって考えた人はすごいと思う。湯たんぽいいよって、2年前のわたしにすすめた友人もは天才である。

そういうのってめんどくさくない?とわたし。お湯入れるだけだよー寝覚めもよくなる感じがするよ、と友人。

布でぐるぐる巻きにした湯たんぽを布団まで持って行くように言われた友人の子が、ちょっと得意げな顔つきで湯たんぽを運んでいるのを思い出す。気持ちいいよねぇ?と聞く友人に、小さな声で、うんと答えた表情を見て、買ってみようと思ったのだ。

わたしも今なら、あの表情をする。

あら、湯たんぽっていいのよ、ご存知なくって?

お気に入りの湯たんぽ

弥満丈(やまじょう)製陶 湯たんぽ 

長さ25cm ×幅22cm ×高さ9cm 重さ約1.25kg 蓋にゴムパッキンがついている以外は全身陶器でできている子

布団に潜り込んだ瞬間の足先の至福を味わったあとは、ふくらはぎの裏や太ももあたりを温めるのがおすすめ。冷え切った足先を直接温めるよりも、早く全身が温まります。明け方に目覚めると、お腹のあたりで抱えていることが多い。

ちなみに、文明の利器である電気毛布だともっと楽かもしれないけれど、どうも苦手。ちなみに電気カーペットも苦手。結露した窓ガラスみたいに皮膚の表面だけ熱くなって汗ばんできて、でも体の内側は凍えている感じが、どうにもこうにも苦手でねえ・・・。

そんなわけで湯たんぽ派です。

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